Novel *
金色の記憶
独りでいきたい。
自由でありたい。
…はず、だったのに。
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白いシーツになだれ込むと、疲れがどっと押し寄せてくる。
マントなどの装備を着けたままでベットに倒れてしまったが、それを外すよりもひとりきりの空間を満喫するほうが優先度が上だ。
久々の感覚。誰かの目を気にする必要もなく、そのまま眠りに入ろうとしたところでふとある声が頭の中で再生された。
『明日は噂の魔物を探しにいくから、今日はゆっくり休んでくれ!』
ガバッ!という表現が一番わかりやすい勢いで顔をあげた。
癪だ。何故か癪だ。アレの言ったことは正しい。だが、その通りに従うのは今まで培ってきたプライドが許せなかった。
…そもそも、俺にあんなことを言ってきた男――ラグナスと名乗ってきた「勇者」と今共にいるのは、俺のことを「仲間」と称してこいつが勝手についてきたからだ。
話は太陽を巨大化したサタンに逆襲してやったところから始まる。原因の水晶を割った後は泥沼の取っ組み合いとなったのだが、そこに割り込んできたのがあいつだった。
小さな身体で担いだ剣を振りかぶりながらも言ったことを推測したところ、どうやらサタンを「魔王」と称して退治しに来たらしい。この状況は俺にとってかなり好都合だった。
このまま永遠と取っ組み合いをするよりはこの子供を囮にしながらさっさと倒したほうが楽だろうと考えた俺は、
案の定俺が苦戦していると勘違いし乱入してきたラグナスを盾にしつつも魔法を一発かましてやったのだ。
そしてサタンは目を回し、これにてめでたしめでたしと終わる―――はずだったのだ。
――「凄い!さすがは魔導師だ!」
この一言がすべての始まりだった。
ヤツは何故か俺を気に入った様子で、その後俺が行くところすべてに着いて来たのだ。
だが、俺の気ままな旅に着いてこれているかは世辞を抜いても微妙なところだ。ヤツは黄金の鎧に立派な剣、と装いだけは豪勢だが、その実力は目も当てられないほどだ。
ドラゴンを見れば逃げ回り、敵へと振るった剣はむなしく宙を切り、罠にもすぐにひっかかる。これで勇者を名乗っているのが信じられない。俺ならば一人で全て片付けられた。
だが俺が戦っている間も一応学んではいるようで、敵の知識だけは一級品だった上にほんの少しずつだが剣の腕が上がってきた。
勇者曰くレベルが順調に上がってきている、らしい。
その後にこの呪いを解く為にはレベルアップは必要不可欠だとか、本当の姿の自分は今と比べ物にならないぐらい強いだとか言ってはいたがすべて無視しておいた。
…こういった感じで、俺はしばらくあの勇者と旅をしてきたのだ。
いつもならば宿でもヤツは近くにいるが、今は久々の一人の空間。
さてどうするか、とベッドの上であぐらをかいた。装備は邪魔なので外して異空間に閉まっておいたので身体は軽い。
こういう暇な時、ヤツは何をしていただろうか?
アレならば確か、今のように町に繰り出して情報収集に勤しむか、意味もなさそうな剣の素振りを始めるか、あとは…
「…って、何を考えているのだ俺は……!」
頭をぶんぶんと横に振るが、ヤツの顔は消えなかった。
どうやら、俺は相当勇者というものに毒されているらしい。闇の魔導師ともあろう者が何たるザマだ。
アレがいても面倒が増えるだけな上に、そもそもアイツのことが理解できないと思っているのではなかったのか。
苛々とした心は休むという単語を完全に忘れ、闇の剣を異空間から取り出すと個室の扉を乱暴に開けた。
恐ろしい物を目撃したような目をした他の宿の客とすれ違いながらも階段を降り、受付を通りすぎ、青空が広がる空間へと繰り出す。
確かに周りには人がいるが、それでも今は「一人」なのだ。このまま適当に姿を消せば、ヤツも気がつかないだろう。
そうと決まれば話は早い。俺は自分の周りにあの金色が無いことをよく確かめた後、安堵のため息をつく。
よし、これで自由だ。素早くここから去るためにも転移魔法でも使えば……
「………。」
ふとヤツの顔が浮かぶ。
単純に俺の後を着いてくる「勇者」。
実に滑稽な光景だ。俺はただの魔導師ではない。闇に生きる魔導師なのだ。そのような者を仲間と呼ぶなど。
「…仲間………か」
聞き慣れない言葉。はじめは嫌で嫌でしょうがなかったが、今では嫌悪感はなさそうに思える。
今は弱くとも、いつかは強くなると足掻こうとする姿。俺がどんなに邪険に扱おうとも、俺のことを心配する姿。
…そういえば先ほどもそうだった。アイツもまた疲れているはずなのに、情報収集は自分に任せて先に宿で休むようにと言ってきたのだ。
俺は大人…といえる身体だが、アイツはまだ子供だというのに。
「……ったく、」
転移魔法のための魔力は霧散し、首を横に振る。
あれの色はわかりやすい金だ。他の街人に聞けば居場所もすぐわかるだろう。
闇の剣は異空間へと仕舞い、空いた片手で肩を揉みながら街を進んでいく。
やがて見えた後ろ姿に、…一瞬、ためらいはしたが。
「……ラグナス!」
振り返った顔が、みるみるうちに明るくなった。